体験談(約 23 分で読了)
あの日のこと~家族への洗礼(3/3ページ目)
投稿:2022-06-23 01:48:55
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「うーん、そう中学の時に連れてきてもらってたね、お姉もお父さんも寿司ならここって、ほかの店行かないから」
「そうね、あの人はここって店決めたら、その店なくなるまで変えないからね」
「ウチは、まだ当分なくなりませんから」話を聞いていた大将が合いの手を入れた。
みんな笑い声を上げた。同じことに笑う、いいものだ。
徳利が別の器に数回変わった。その都度、酒の中身も変わっている。そのどれもが素晴らしい。
「これでひと通りお出し致しました。マリちゃん…なにか食べたいモノある?」
大将が挨拶した。
「うーん……海老!」
確かに旨い巻き海老だった。マリは海老蟹に目がない。ほどなく車海老が3つ、それぞれの前に置かれた。
「これは、わたしからのほんの気持ちです。お祝いの」
「あら、大将……ありがとうございます」お義母さんに倣ってオレも頭を下げた。
「大将、ありがとうございます。ね、また来ようね、ここ」
「そうだね、マリんち来たら、ここって決めよう」オレもぜひ再訪したい店になった。
お義母さんがお手洗いに行く。
「なあ、ここの支払いオレがしてもいいかな、3日も世話になったし」
「今夜の夕飯だったから、別に気にすることないよ、甘えておこ」
「そうか……ならいいけど」変に気を回さぬ方がいいかもしれない。
大将がお義母さんの戻りに合わせて会計を差し出す。チラと見た金額は東京とさほど変わりない額だった。だが内容から見れば納得いく値である。
ありがとうございました。マリちゃん、ダンナさんとまたお越しを。大将に見送られ店を出た。
外は涼しく、満月にあと一歩という月が出ている。
「ご馳走さまでした。美味しく頂きました」
「よかった。気に入ってくれてありがとう」
「ね、もう一杯飲んで行こうよ、日本酒ばっかだったから、口直しでさ」
マリの提案に同意だが、お義母さんの言葉を待つ。
「そうね、気分いいし、食後酒でも飲みましょう」
他愛ない親娘の会話のやり取りを聞くのは飽きない。
少し歩いたところのオーセンティックなバーで数杯ずつカクテルを飲み、車を呼んでもらった。気分の良い夜だ。
タクシーに乗ってしばらくして、あっ車、と思い出した。
「えっ、今気づいたの?」
「ああ、車で来てたんだ」
お義母さんが吹き出していたが、大丈夫、止めたとこ、ウチの駐車場だから、防犯カメラもあるし、と言ってくれて安心した。
「たまぁに、ド天然だすよねー」
「美味いもん食って、いい酒飲んで、気分良くなってた」
「マリちゃん、かわいい人見つけたわね」
「うーん……たまにマジあきれるボケするし、気分良くなると天まで昇っちゃうんだよね」
オレはタクシーの隅に小さくなった。
翌日、お義父さんが車まで送ってくれた。荷物もまとめ、お義母さんへの挨拶も終えた。
マリのことよろしくお願い申し上げます。と最敬礼されて心から恐縮した。
駐車場に着くと、お義父さんも車を降りた。
「マセラティ…レバァンテいい車だ。いくらした」
「1000ちょっとです」
「ウソー、あたしに言ってた金額と全然違うけど」
「オプション付けたりいろいろかけると……」
「鍵貸して」お義父さんが興味あるようだ。
運転席に座ってすぐエンジンをかけた。
車をよく知っている。モードを変えたエンジン音が聞こえた。
しばらくあちこち覗いて、降りて来た。
「車道楽もいい加減にしておかないとね」
「はい」
お義父さんは、国産のガソリンいらずの車に乗っている。
欲しいフェラーリには手が届かず、イタリア女のようにセクシーなマセラティに憧れてやっと手にした一台。次は国産のRVにしようと思う。
「それでは本当にお世話になりました。ありがとうございました」
「うん、じゃよろしく頼むよ」
バックミラーにお義父さんの見送る姿が映っていた。
とりあえず、またハードルを一つ超えた感があった。
「ウチのお義父さんもね、つい最近まで車大好きだったんだよ。2人しか乗れない車買って来て、お母さんから怒られてたし」
「そうなんだ……ところで、おまえのとこって、どこか外国の血って入ってるの?」
「なんで?」
「いや、お義母さん、お姉さん、まぁオマエにしても、美人揃ってるし」
オレは思っていたことをマリに聞いてみた。
「なにその……まぁって……どうせ、お母さんの方がキレーと思ったんでしょ」
「いや、そこはケンソンしなきゃ……」
「その辺ね、よくわかんない……むかしクジラ取りに来たノルウェーの人となんかあったとか聞いたことあるけど、誰がどうしたのか……少なくとも、あたしのおじいちゃん、おばあちゃんは純粋な日本人だよ」
「そうか……あ、それと…次、病院行く時、オレも一緒行くわ」
「……何しに?まだ何もないよ」
「担当医に挨拶して顔見に行く」
「美人の女医さんだよ」
「じゃ上等な菓子折り持っていく」
マリが笑いころげた。
マリのお義母さん……実に古風で奥ゆかしいが、感性が日本人離れしていると、昨日のことをよぎらせていたが、この秘密は墓まで抱えていく。
途中のパーキングエリアに車を入れた。マリと共に飲み物を選び、トイレを済ませて戻る。
「なあ、見せたいモノあるんだ。すごい貴重なモノ」
「………?」
オレはバックからそれを取り出しマリに見せた。
一枚の写真。マリが鉄棒を掴んで満面の笑みを浮かべてる。
小学校の高学年であろう。少女の気配を残しつつオトナへと背伸びしてる様子が見て取れる。
「あっ、懐かしい……それ」
「オレの宝物にする。額に入れて飾る」
「アルバムから剥がしてきたんだ」
「ああ、この一枚がどうしても欲しくなった」
「そっか……」
「あのさ……オレ…マリがずっとこの笑顔でいられるようにする」
「うん……」
マリが寄りかかってきた。
「おい、運転できねーよ」
「じゃしなきゃいい、運転なんてしなくていい……」
人目を憚らず、ふたりは唇を重ねた。
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