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道流と亜樹と杏花と誠一……ワンスアゲイン サマーホリデー 〜いつまでも変わらぬ性癖で〜(中編)(5/6ページ目)

投稿:2021-10-01 18:12:11

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本文(5/6ページ目)

道流が校舎の一角にやって来ると、入口からタックトップを着た杏花が涙目で降りて来た。

道流はすぐに着ていた白いシャツを脱ぎ、杏花の腰に巻いた。

杏花「道流君……もう帰りたいよ」

まるで別人のようだった。いつも馬鹿みたいにおちゃらけて、それでいて強気な杏花が、こんなにも怯えている姿に、道流は戸惑ってしまった。

けれど、すぐに抱きしめて気持ちを落ち着かせてあげた。

道流「大丈夫。もう大丈夫だよ。僕も誠一さんもちゃんとそばにいるからね」

そう言いながら、背中を優しく擦った。肩には二階堂の歯型が残っていて生々しかった。でも見た感じ、一日二日で消えるような浅い跡だった。

道流は杏花を車に連れて行き、後部座席に座らせた。

道流「少しだけ待っててね。今誠一さんを呼んで来るから。あと、服も取ってくるから」

杏花は何も言わず、頷いた。

道流はまず誠一に声をかけた。早くそばに行ってあげてください、と。

そしてそのあとは、二階堂のいる教室に向かった。入ると、二階堂は杏花の下着を顔に押し付けて、匂いを嗅いでいた。

不快。道流は目を背けた。

二階堂「どうでしたかな?あの女性が、か弱い声を上げる様は」

道流「……その下着は、あの子の物ですよね?返していただきますよ」

二階堂「いえいえ、それは出来ません」

思いもよらない返答に、耳を疑った。

二階堂「この下着は、言わば戦利品なのです。御木さんから聞いていませんか?私達は、セックスをした女性の下着を戦利品として持ち帰り、それをサイトに載せるのです」

なら、優衣花も美雪も?

道流「いったい何のために……」

二階堂「当然、リアリティのためです。と言っても、アイデアは全て御木さんが考えていますので、私達男共は、ただ欲求に従って犯すのみ。だからこそ、本当に残念でした。以前に続いて、またしても……」

道流「またしても?」

オウム返しに聞いた。

二階堂「フフッ。私は以前……去年の夏、ちょうど今と同じ時期にこの島にやって来たことがありましてね。まあ、そのときは御木さんやメンバーの二人はいなかったんですが。そこで偶然にも、奥様と旦那様と出会ったんです。ただ、二人は私のことを……当時のことを覚えていないようでしたが」

誠一さんと杏花ちゃんのことか。道流は思った。

そして、あのとき誠一が言葉を切った理由がわかった。

誠一は知っていたんだ。この男のことを。覚えていたのに知らないフリをしていたんだ。

二階堂「一目惚れでしたよ。あの奥様には。だって、あんなに色気溢れる身体ですよ?あなたも惹かれたことはありませんか?」

道流は、杏花と一つ屋根の下で過ごした日々のことを思い出した。たしかに、今までに何度もその魅力的な裸体を想像して肉棒を大きくさせたことはあった。でもそれは単なる男としての好奇心であり、悪戯心のようなもので本気にしたことはない。

しかも道流にとって、杏花は親友だ。そんな親友に対して二階堂のように歪んだ欲望を抱いたことはないし、今までもこれからもあり得ない。

道流「ありませんよ。僕はあなたとは違う」

期待外れだったのか、二階堂は、そうですか、とさも残念そうに返事をした。

二階堂「ふとしたことで、私はあのご夫婦と卓を囲むことになりましてね。そのときに、運命というのは巡り巡って来るのだと、改めて感じましたよ。そう、私と奥様は運命の『赤い糸』、もとい『白い糸』で繋がっているのだとね」

満足げに、二階堂は薄ら笑いをした。

二階堂「ご夫婦とのひとときはなかなかに楽しいものでしたよ。ですが夜も更けて来ると、ご夫婦は夢の中に行ってしまわれまして、私はご夫婦の隣で愉悦に浸りましたよ。フフフ」

薄気味悪い声だった。

二階堂「それからの奥様は、まるで眠り姫のように美しい顔をしていました。その姿に、私は感動にも似た気持ちが溢れていたのです。私は我慢が出来ませんでした。こんな美しい身体をした女性が目の前で眠っているのです。紳士として、王子として、丁重に介抱しなければなりません。これは宿命です。私は長い時間をかけて、奥様を愛撫しました。身体の隅々から指先まで丁寧に」

そこで間を作り、一度天井を見上げた。二階堂はそのときの光景を思い出しているのかもしれない。

続けた。

二階堂「するとどうでしょう。彼女は夢の中にいるはずなのに、ときおり身体を反応させるのです、私の愛撫に。それからも念入りに舌を使って舐めました。奥様は、この世の男達の至宝のような存在だ。私はそんな女性を、独り占めしているのです。興奮しないわけがありません」

いちいち腹が立つ言い方だった。

この人は他人の妻をいったいなんだと思っているのか……。

女性に対する思いやりや感謝などが一切感じられない。さきほどから言葉を丁寧に飾り付けて聞こえをよくしてはいるが、本質はただの変態だ。

道流は奥歯を噛みしめる。

道流「じゃあなんで、そのときはセックスをしようと思わなかったんですか?」

二階堂「ああ、それは簡単な話しですよ、私は声が趣味なんです。とくに女性の悲鳴がね。だからやるからには、乱暴に……言わばレイプをしたいんですよ。そしてその女性から発せられる悲鳴に、私は最大級の快感を得られるわけです」

背筋がゾッとした。イかれている、と道流は嫌悪した。

二階堂「ところによると道流さん、あなたにも奥様がいらっしゃるとか。私には、思い当たる方がいまして……。船で見かけたのですが、小柄で茶色髪のショートカット……」

その瞬間、道流は心臓が高鳴るのを感じた。二階堂はその微妙な変化をを見逃さなかった。

二階堂「なるほど、やはりあの女性ですね。うんうん」

目を瞑り、何度も頷いた。

二階堂「可憐な雰囲気を纏っていて、遠目からでも自然と吸い寄せられてしまいましたよ。ふっくらとした唇は、凄く美味なんでしょうね。それに、服の上からでもわかる胸は、とても豊満で遊び甲斐がありそうだ」

遊び甲斐だと?道流はふたたび込み上げてくるものを感じた。

二階堂「下着の好みはなんでしょう?よければ仕立てて差し上げましょうか?彼女は白が似合うと思うんですよ。もちろんTバックでガーターベルトなど身に着ければ、さらに色気を引き立たせてくれると思うのですが……」

夫である道流を目の前にして、二階堂はせせら笑った。それに言いたい放題だ。もうすでに、二階堂の頭の中で亜樹は裸にされているのだろう。まるで着せ替え人形のように弄ばれているに違いなかった。

二階堂「どうです、この私に味見をさせていただけませんか?きっとお気に召していただけると思うのですが。それとも、ジョーみたいな荒々しいタイプがお好みですかな。ははは」

亜樹が、優衣花みたいに侵される……。道流の頭にその光景が光を放つかのように鮮明に浮かんだ。

不甲斐ないことに、道流は勃起してしまった。

二階堂「ハハハ。いやー愉快愉快。では、もし貴方の奥様と相見える瞬間があるならば、遠慮なく快楽を共有するとしましょう」

道流は無言のまま、床に落ちている杏花のスカートを手に取り、その場を離れた。

二階堂は窓の外に視線を移し、

二階堂「今夜は、月が綺麗ですね」

そう言って、やがて来るであろう瞬間に思いを馳せた。

道流が車に戻ると、すぐにスカートを手渡して、杏花に着させた。

車内には気まずい雰囲気が漂っていた。杏花と誠一はお互いに顔を合わさず、口も聞いていない。

重苦しい空気が、まるで身体にのしかかるようにありありと感じた。

でも、無理もない。誠一は杏花が襲われているというのに、それを色欲として眺めていた。

杏花は夫である誠一の名前ではなく、親友である道流の名前を叫んだ。

……道流が声をかけることが出来ないでいると、

杏花「……道流君。帰ろう」

もう限界なのだろう。杏花は振り絞るようにして声を出した。

道流「そうだね。じゃあ、優衣花と美雪を……」

すると、校舎から二人が出て来た。

ヘッドライトに照らし出される二人の姿には、うっすらと乳首が透けて見えていた。

道流は思わず目を逸らす。

そうだ、二人は下着を身に付けていないんだ。道流は二階堂の言葉を思い出した。

しかしふと気になり、視線を戻した。

美雪の表情がやけに暗かったのだ。うつむき、心ここにあらずという感じで……。もしかしたら、和夫とのセックスを後悔しているのかもしれない。

だが反対に、優衣花は艷やかな表情をしていた。きっと満足出来たのだろう。そこに疑いの余地はなかった。

あの優衣花こそが、もう一人の優衣花であり、本来の欲求に従ったありのままの姿なのだ。でも、優衣花は道流と誠一が見ていたことを知らない。これから、幾人もの男達が見ることも。

道流はまた、胸が痛むのを感じた。棒でグイグイ突かれるような苦しい痛みだ。

優衣花と美雪は、何も言わずに車に乗り込んだ。

道流「誠一さん、お願いします」

そう言って道流が車に乗り込むと、誠一はゆっくりとアクセルを踏んだ。

【23】

旅館の車寄せに停車して、優衣花と美雪を先に降ろした。

道流は杏花が心配だったので、車内に残り最後までついて行くことにした。

車のエンジン音と海から届く波音が、疲れ切った心身を癒やしてくれるようで、そのうちに安心したのか、杏花は眠ってしまっていた。

途中信号が赤になり、車が停車すると、前方を見据えたまま誠一が言った。

誠一「道流さん。今日はありがとうございました」

その礼が、何に対してなのかわからなかった。

道流「いえ……」

単調な返事になってしまったが、その後は一切会話はなく、誠一の家に着くまでお互いに言葉はなかった。

車が、家の敷地に入った。ゆっくりと、車をバックさせ駐車スペースに停車させる。

誠一「道流さん、杏花を運んでもらえませんか?」

誠一は後方を確認しながら言った。

道流「え?」

誠一「僕には、資格がありませんから」

それに返す言葉はなかった。誠一は、今一人で自分の行いに後悔しているのかもしれない。

誠一は車を降りると鍵を開けて玄関の戸を引いた。

道流は杏花の身体を抱き上げて、中に入り、

道流「寝室はどこですか?」

そう問いかけると、誠一は案内してくれた。二階に上がり、すぐ右側の襖を開けた。

そこには一枚の、旅館などで使用されているような真っ白布団が敷いてあった。

道流はゆっくりとその上に杏花を下ろして、布団をかけてあげた。よほど疲れているのだろうか、まったく起きる気配がなかった。

少しの間、普段とは違った面影を見つつ、道流は静かに寝室を後にした。

階段を下がると、木の軋む音が聞こえた。上って来るときはまったく気づかなかったのに。

誠一「道流さん、少しいいですか?」

階下にいた誠一が、神妙な面持ちで言った。

少し、か。道流はなんだか変な感じがした。少しとは時間のことだろうけれど、少しというにはいささか内容が重いし、少しの時間でどうにか答えを出せるものでもないような気がしたのだ。

けれど、誠一の心模様が手に取るようにわかるのは、それはきっと自分も同じ側の人間だからなのだろう。

居間に入ると、すでに座卓にお茶が用意されていた。湯呑から湯気がぼんやり昇っている。道流は座布団に腰を下ろして、湯呑に口をつけた。

誠一「こんなこと聞くのは野暮かもしれないですが……道流さんも同じなんですか?妻が犯される姿が見たいという……」

そう質問しながら、誠一は向かい合い座った。

同じ……。たしかにそうかもしれない。けれど、

道流「そうです。でも誠一さん、僕は違うんです」否定する。

え?湯呑に手を伸ばしかけた誠一が、顔を上げた。

道流「僕はあなたとは違い、自分勝手ではありません。何より、自己中心的な欲望を押し付けて、挙げ句の果てに寄り添うこともしなかったあなたの薄情さに腹が立ったくらいです。誠一さん、妻は物じゃないんですよ」

考えていた以上に、無意識に言葉が溢れ出てきた。

誠一は、羞恥を感じて顔がカッとった。

道流「誠一さん、『僕達のセックス』で一番大切なことってなんだと思いますか?」

誠一はしばらく考えた後に、相手ですか?と答えた。

道流「違います」

キッパリと断言して、

道流「ただ、誤解はしないでください。あくまで僕達のセックスですから……。必要がないわけではなく、妻に甘美な快感に酔っていただきたいなら、しっかりとした知識やテクニックは必要です。ですが、僕達は違うんです」

改めて強調する。

道流「僕達のような性癖は、他人に妻を委ねることからはじまるんです。それがどんなに危険と隣合わせかご存知ですか?一歩間違えれば、それは時として大きなトラブルを招くこともある。そこにあなたの大切な妻を預けることになるんですよ?理解していますか?」

道流は真っ直ぐ、誠一の瞳を見つめながら言う。

道流「だからこそ、一番大切なのは、妻に安心感を与えることなんです」

誠一は、座卓に視線を落とした。

道流「誠一さん、テクニック以前の問題なんですよ。それに、忘れてしまったんですか?あなたが杏花ちゃんと結婚しようと決めたとき、おそらく死ぬまで守り続けると誓ったんじゃありませんか?あなたは自分の欲求のために、自ら守ると誓った人を危険な場所に置いて来てしまったんです。その意味をわかっていますか?」

道流の口調が強くなる。

でもそれとは反対に、まるで暗いトンネルを抜けたかのように、誠一の顔がパッと明るくなったことに道流は気づいた。

道流「たしかに、この性癖の相手は他人であり僕達ではないです。でも、同じです。一緒に繋がっているつもりで、常に心は寄り添って支えてあげなければいけない。そして行為が終わったなら、そっと愛情に満ちた言葉をかけて抱きしめてあげてください。それが、僕達が持っている性癖の証明になります。そうしてはじめて、愛を育むことが出来るんです。……僕はそう思います」

道流はそう言いながらも、誠一が鏡に映る昔の自分と重なって見えた。

今までに、何度も失敗してきた。喧嘩して、怒られて、呆れられて、涙を流した。そういえば、亜樹が出て行ってしまったこともある。

忘れてしまっていたのだ。恋は盲目……いや、欲望に目が眩み、何も見えなくなってしまった。勘違いしてしまっていたのだ。

性を満たせば、愛が深まる。そんなことはない。愛があるからこそ、性を深められるのだ。

いったいどれだけの失敗があったか、気づくまでにどれだけの年月がかかったか。でもたしかに、進むことが出来た。道流は改めて、亜樹に対する思いを再確認した。

道流「……すいません、偉そうに。でも、見て見ぬフリは出来なかったんです。今夜のことが、どういった理由で起こったことなのか、僕にはわかりません。ですが、他人事とは思えなかったから……。だから本気で、誠一さんと向き合いました」

道流にも、しっかりとした覚悟があった。誠一の心の中に土足で入って行く覚悟が。

中途半端な説教はいらない。ここで必要なのは、自覚させ思い出させることだと、道流にはわかっていた。

そこには間違いなく、自分が通って来た道があったから。

道流「誠一さん、僕は今までに何度も妻を他人に抱いてもらいました」

その言葉に、誠一の心臓は高鳴った。

道流「妻の姿……触られて喘ぐ姿、舐められてよがる姿、他人の肉棒をしゃぶって愉悦に魅せる姿……そして、肉棒を奥深く挿入され快楽に堕ちていく姿。どれも素敵な妻であり、そのどれもが、自分が求める愛する妻なんです」

誠一はその瞬間、何かが弾けた感じがした。

誠一「道流さんはとても凄いですね。同じ……似た性癖を持ちながら、しっかりと亜樹さんとの愛を深めている。それに加えて、お互いに深いところまで理解し合っているのですね」

感心したように言った。

道流「まあ、山あり谷ありでしたけどね」

道流は苦笑いをした。

誠一「道流さん、わかりましたよ。僕はきっと、無意識のうちに疎外感を感じていたんだと思います」

疎外感?道流は聞き返す。

誠一「はい。杏花は何でも出来ますから。掃除、洗濯、料理、仕事ですらも。逆に僕は何も出来ません。呆れるほどに。だから、僕なんていらないんじゃないかって、杏花は一人の方がもっと喜楽なんじゃないかって、感じていたんだと思います」

誠一は自分で確かめるように頷く。

誠一「情けない話しですよ、杏花と『はじめて出会った日』のことを思うと。てすがそこに、去年の出来事が起きてしまったんです。それからはずっと、僕は杏花のことを性のはけ口にしか見ていなかったんですよきっと。酷い話しだ」

あまりの情けなさに、自ら首を横に振った。

誠一「でも、道流さんのおかげで思い出すことが出来ました。ありがとうございました」

その表情はとてもハツラツとしていた。

道流「誠一さん、人には向き不向きがあります。決して何も出来ないなんて決めつけてはダメです。少しずつでもいいから、まずは一緒にやってみてください。ちなみになんですが、亜樹は料理がてんでダメでした。でも、一緒に練習したんです。今では僕に変わり色んな料理を作ってくれて、それがまた特別に美味しいんですよ」

道流はそう言いながら、照れ笑いをしてしまった。

道流「もしこの先、また何か悩むことがありましたら、ぜひ聞かせてください。僕でよければ力になりますよ」

誠一は感動していた。もう、湧き上がってくる思いを言葉にすることが困難だった。

誠一「本当に、ありがとうございます」

それが精一杯の言葉だった。

誠一は頭を下げて、冷めてしまった湯呑に口をつけた。道流もそれにつられて、同じくお茶を一口飲んだ。

誠一「道流さん」

誠一は湯呑をコトっと置いて、道流の顔を真っ直ぐに眺めた。

道流が、はい、と返事をすると、

誠一「お願いがあります……」

唐突な申し出に、道流はしばらくの間思考が止まった。

【24】

旅館に戻って来たとき、腕時計の針は十時を過ぎていた。

あれほど暑かった気温も、この時間には下がりだいぶ涼しく感じられた。

エレベーターで三階に昇って来ると、部屋のドアを開けた。亜樹が浴衣姿で布団の上に座りながらテレビを見ていた。

亜樹「おっ、やっと帰って来たね。ただいま」

亜樹はそう言いながら立ち上がり、わざわざ道流の近くまで出迎えに来てくれた。

道流「うん、おかえり。……って逆だから」

道流はサンダルを脱ぎながら、相変わらずの挨拶を交わす。

亜樹「ふふっ。よろしい」

そう言って、二人は部屋の隅に寄せてあるテーブルの近くに座った。

テーブルの上にはお茶を淹れた湯呑と、スナック菓子の袋があった。それは亜樹の好きなお菓子で、事前に買って島に持って来た物。道流はなんだか可笑しくなった。スッと緊張感というか身体の強張りのような感覚がなくなって、まるで我が家に帰って来たときの安心感に包まれた。

道流「テレビはどうだった?面白かった?」

亜樹「うん、とっても。でね、聞いて道流」

そこで一度座り直して、亜樹は改めて続けた。

亜樹「さっき真琴ちゃんから電話があったんだ。なんかね、悪天候で一日目のライブが急遽中止になっちゃったんだって。すっごい残念がってたよ。だから私ね、言ってあげたんだ、ドンマイって。そしたらね、そんな体育会系な慰めじゃなくて、大人っぽいのをください!だってさ。大人っぽいのってなんだろうね」

そう言って、亜樹は笑った。

道流「真琴のことだからね、きっとろくなもんじゃいよ」

亜樹「うん、私もそう思った」

答え合わせをするかのように、二人は笑い合った。

亜樹「それで、肝試しは?さっき優衣花と美雪ちゃんが来たんだけど、なんかパッとしない感じだったんだよね。とくに美雪ちゃんが」

美雪!道流は思い出したかのように目を大きく開いた。

亜樹「ん?どうしたの?」

道流「あ、うん。そっか……。ねえ亜樹、もうお風呂は入ったの?」

入ったよ、と答えた。

道流「じゃあ僕も行って来るね。汗かいちゃったからさ」

亜樹「なら、早く行って来なよ。服は私が仕舞っとくから」

道流「ありがとう亜樹」

そう言って、道流は浴衣に着替えた。

道流「ねえ亜樹、美雪がさ、少し元気がないみたいなんだよね、肝試しに行ってから。だからさ……」

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