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行き過ぎた痛みは電車に乗って......。(1/3ページ目)

投稿:2020-04-03 16:25:57

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スカートの中の通り道◆IneER1g

また、今日もだった。

同級生の桃子はとにかく美人だけど、性格がキツくて高飛車なのだ。それに僕みたいなひ弱で目立たない、影を空気に潜めているような男はパシりとしか見ていない。

昼休みになると、桃子は僕の机の前に平気で立ち、パンとレモンティーを買って来いと当然のように言い放った。まるでそれが義務であるかのように。

しどろもどろに返事を返すと、桃子は目を細め鋭く睨み付けたので、僕はその姿に焦り教室を出た。

納得できないけど、言い換えればいつも通りなのだ。それに従っていればそれ以上は何もない。桃子みたいな学年一のアイドル生徒には反抗しない方が利口だということを高校二年の夏、今この瞬間にしみじみ感じていた。

「はい、お釣。君はいつも同じ物だね。もっと食べないと大きくならないよ?」

本当にそう思うよ。売店のおばちゃんは僕が欲してると思ってるんだろうけど、事実は違う。

教室に戻ると、桃子のグループが机を囲んで談笑していた。しかも桃子は僕の机に座っていたのだ。

「これ、買って来たよ」

皆が一斉に注目した。僕は胸が苦しくなり顔いっぱいに熱を感じた。

「あはは、なんで赤くなってんの?本当に聡は童貞だよね。キモいんだけど!」

関係ないだろ。だけどそう思っても口にすることはできない。

「要らないの?」

差し出しているのに、桃子はそれを受け取らなかった。

「やっぱり要らないや。今日は真帆のご飯もらうから。それあげる」

そう言って、桃子達は教室を出て行った。

いや、あげるって言うけどさ、これ僕のお金で買った物だし。......まあ、どうせそんなこと言えないけどさ。

席に着くと、桃子のお尻の暖かさが机に残っていて、女子の残り香が漂っていた。

放課後、僕は図書室に寄り本を数冊借りた。これは日課のようなもので、月曜日に借りて金曜日に返却する。学校での楽しみの一つだった。

「聡君、もう帰り?」

図書室を出たとき、同級生の真理亜ちゃんが声をかけて来た。

「うん。真理亜ちゃんはこれから?」

真理亜ちゃんは高校に入学したときに知り合った。そういえば、まさに今と同じタイミング、図書室を出たときだった。

「返却だけしようと思って。たしか電車一緒だったよね?一緒に帰らない?」

「う、うん。もちろんいいよ」

それは、最近気づいたことだった。僕は真理亜ちゃんが好きだ。今まで恋愛のれの字もなかった。むしろ僕みたいな奴が好きな女の子なんてとても夢物語にしか思っていなかった。

でも、彼女......真理亜ちゃんは、こんな僕に笑顔を見せてくれた。なんで?と悩んだことも一日や二日じゃない。もしかして罰ゲームか何かで近付いて来たんじゃないかってひねくれたこともあるけれど、やっとこの頃になって素直に認めることができるようになった。

「今返却して来るからちょっと待ってね」

長い髪がひらひらと風に舞うように靡いた。それに真理亜ちゃんの匂いは桃子みたいな香水女とは違ってどこか優しい。柔軟剤みたいな......。

しばらくすると、真理亜ちゃんが返却を済ませ戻って来た。

僕は鼓動を跳ね上がらせたがそれを隠すように毅然と見せた。

「そんなに熱い?変なの」

しかし、気持ちを抑えても額からは大量の汗が滲み出ていた。真理亜ちゃんはクスッと笑い、僕はその表情を見て火が吹きそうな羞恥を覚えた。

「はい。使って」

真理亜ちゃんは鞄から白いハンカチタオルを渡してくれた。

「え?え、いいの?汚れちゃうよ」

「ふふっ。何言ってるの?ハンカチは拭くための物だよ?こういうときのための」

真理亜ちゃんは意地悪く笑いながらハンカチを僕の額に当てた。

「あっ!大丈夫だよ!自分でやるから」

あたふたとハンカチを取り上げると、僕は眼鏡を外しぎこちなく拭った。

それを見て、また真理亜ちゃんはクスりと笑う。

暗い日常を照らすような太陽の光は、僕にとってこの瞬間、真理亜ちゃんとの一時だけだ。

別にいじめられているとは思っていない。そこまで気にしていないから。心と体には多少の矛盾はあるけど、高校生活ももうすぐ折り返しが来る。どうせ桃子達も、受験勉強が始まれば僕なんかに構ってる暇はなくなる。

「今日はどの本を借りたの?」

「うん。僕は歴史が好きだから......」

でも、真理亜ちゃんとはこの先も変わりたくない。

外は茜色の夕陽が綺麗だった。駅に向かう道で、二人並んで歩いていることがにわかには信じられなかったけど、夕陽が照らす真理亜ちゃんの横顔を見ると、夢や幻想ではない現実にいるんだと確かめさせてくれる。

多分、僕にとっては天使のような存在だけど、他の生徒からしたら、真理亜ちゃんの容姿は中くらいなんだと思う。それでも内面の明るさで、いくらでも注目の的になれるような女の子だと思っていた。

本当に、桃子みたいな外見だけの女とは大違い。

「ねえ真理亜ちゃん。変なこと聞いていい?」

「ん?いいよ」

真理亜ちゃんは何か期待しているのか目を見開いた。

「あ、いや、別に大したことじゃないんだけど......僕ってさ......地味だし、ひ弱だし......なんで真理亜ちゃんはこんな僕に声をかけてくれるのかなって思ったから」

すると真理亜ちゃんは、そんな言葉が意外だったのかすっとんきょうな声を出した。

「え?なんで?地味でひ弱だったら声をかけちゃ駄目なの?」

「いや......駄目じゃないけど」

「じゃあ何でそんなこと聞いたの?」

「......ごめん」

「ふふっ。変なの」

聞いてから馬鹿だったと気づいた。僕の日常は暗い。でも真理亜ちゃんにはそんなことわかるわけがないんだ。聞いてみたいと思った好奇心は所詮僕の一方通行の感情だ。それにいったい、聞いてどうしたいのかもわからなかった。

いや、もしかしたら巻き込みたくなかったのかもしれない。

それから電車に乗り込み、家路を急ぐ振動に体を揺らされながらも、僕は真理亜ちゃんとの一分一秒に心を傾けた。隣に座っている彼女は、本の話しになるとどうやら興奮して夢中になってしまうらしい。

「......凄い展開だよね!それで、その主人公がね......」

僕は相槌を打ちながら、白く綺麗な首筋や、紺のスカートからスラリと伸びる足を舐めるように見ていた。

前に一度、桃子達にからかわれてアダルト動画を見せられたことがあった。僕はその日から性的なことに興味を持ち始めた。

そんなこと考えたこともなかったのに、今となっては制服の下が気になるときがある。この瞬間のように。

「ん?顔に何か着いてる?」

その言葉にはっとして、僕は慌てて否定した。

「えっ!?ううん!何でもないよ」

「そっか、ならよかった。ずっと見てる気がしたから、何か恥ずかしかったよ」

真理亜ちゃんの頬がほんのり赤くなった。僕は外の夕陽を眺めた。

「最後はどうなったの?」

これ以上は嫌な気分にさせてしまうと思い、自分の気持ちを無理やり逸らせた。

「うん。最後はね、復讐しようとしてその女の人を男の人に売っちゃったんだ。でもその出来事が一線を越えちゃう原因になって、理性が効かなくなった主人公は、いつでも味方だった最愛の人も欲望のままに同じ目にあわせちゃって......面白かったけど、凄く怖い感じ」

「そうなんだ。僕だったら絶対そんなことしないのに」

「うん。私もそう思う。聡君は優しいからね」

「ありがとう真理亜ちゃん」

―――

翌日、僕の気分は晴れやかだった。

学生の火曜日なんて、本来なら憂鬱以外の何者でもない。でも、たった一日、昨日のようなことがあったら僕にはそれだけで十分だった。

駅のホームは通勤の人でごった返していた。僕はいつものように先頭車両の列に並んだ。

前にも後ろにも大量の汗をシャツに滲ませている中年の男性がいた。僕は鼻を刺す臭いに気分を害した。

電車に乗り込むと、案の定その二人に挟まれる形になり昨日の気分が台無しになった。

僕は窮屈なため息を吐いて、たかだか五駅ほどなのだから我慢我慢と自分に言い聞かせた。

しかしそのとき、僕はあれ?と見覚えのある後ろ姿に気づいた。もしかして、桃子?......最悪だ。

万が一、それでさえ嫌な空間なのに、桃子に見つかったらまたぐちぐちと嫌味を言われかねない。

あまり視線を向けないように、斜め前にいる桃子を気にしないようにした。

......真っ直ぐで綺麗な姿勢。長い艶のある茶色い髪。スカートから見える足は、真理亜ちゃんとはまた違った色気がある。気にしないようにと意識すればするほど、美人な雰囲気に引き込まれてしまう。

それは周りの男達も同じなのか視線を集めていた。

でも、皆は知らない。その女は外見だけで、自分より弱い立場を攻撃することになんの感情も持たない酷い女だということを。どうせなら、今この瞬間に、桃子が辱しめられて僕の鬱憤が晴れれば最高なんだけどな、と僕は卑劣な考えを思い浮かべてしまった。

額から汗が垂れてきたので眼鏡を外すと、視界がぼやけて見えなくなった。そしてレンズを布で拭くと、あらためてかけ直した。

え?僕は心の中で声を漏らした。焦点が定まった先には、なんと桃子が後ろにいる男性にお尻を撫でられていたのだ。

桃子は恐怖に体を抑え込まれているのか、ピクりとも動かない。あの強気で、口うるさい桃子がまさか怖がっているのかと、僕は唖然としてしまった。

その中年の太っている男は、桃子の様子を伺うように、円を描きながら感触を確かめている。満員の車内は身動きができない。それを利用するかのように、男は大胆になっていった。スカートの裾を少しづつ捲り上げていくとピンクのパンツが露になった。

僕は、いつの間にかその行為に夢中になって息を飲んでいた。

桃子のパンツ。あの美人の下着が、あんなオヤジに。

頭の中が混乱して理解が追い付かない。さらに、それに呼応するように下半身が反応していることに気づいた。

紺のズボンの股下、右側が不自然に膨らんでいる。一本の棒がそこにあるかのように。

恥ずかしい気持ちはなかった。むしろ、可哀想という感情さえ。僕はなんて薄情な奴なんだと思ったけれど、過去の記憶が蘇ってくると、桃子の背中にざまあみろと言い放ちたくなった。

やがて男は右手でパンツを食い込ませ引っ張り上げ、左手で尻肉を鷲掴みにして揉みしだいた。

柔らかそうな肌。どんな肌触りなんだろう。好奇心が疼く。頭一つ小さな桃子に対して、男は顔を首筋に近付けると、匂いを嗅いでいるのだろうか、呼吸が荒くなっているようだった。

止まらない。綺麗な肌を、太く荒々しい手が犯している。男の手は上からするするとパンツの中に入っていき、そのまま股下を潜ると、桃子の秘部を責め始めた。

男の興奮が伝わってくる。僕の心臓は高鳴る。

桃子はうつむき、ときおり体を震わせた。

僕は、さすがにこれ以上はと......罪悪感が興奮していた昂りを鎮めた。

そしてそれを合図にするかのように車内に次の駅のアナウンスが流れ、男が手を引くと、ほっとしたのか桃子が服装を直した。

僕も大きく息を吐き出しドアに振り返ると、窓に反射して見える桃子の姿は僕の背中に向いていた。

ただ、その今にも泣き出しそうな表情は、胸を抉るような痛みを僕に与えた。

電車が止まりドアが開くと、人並みに押されながらホームに降りた。階段を上がるときに列を成したのだが、そのとき桃子が僕の前に割り込んだ来た。

しかし僕は、こんなに近くにいるのに気づかないなんて、先ほどのことが相当なショックを与えたのだろうと思った。

でも、情けないことに、本能というか、今、目の前には桃子のお尻がある。そしてスカートの中はピンクであり、お尻の輪郭まで僕は知ってる。嫌でも、そんな光景と香水の匂いが鎮まったはずの興奮を再び滾らせてしまった。

自分がわからない。心と体は揺れ動いていた。それでも、桃子の表情を思い出すと、つられて涙が溢れそうになる。

こんな奴に情けなんて、今までさんざん僕をパシりにして嫌がらせをしてきたのに、いい気味じゃないか......そんなふうに思えばいいのに。僕はなんて愚かな人間なんだと、虚しさが胸いっぱいに広がった。

少し距離を取りつつ改札を出ると、結局桃子は僕に気づくことなく先を急いだ。

学校に着き教室に入ると、そこにはいつもと変わらない桃子がいた。友達の輪の中心で笑顔を見せている。

僕は安堵からか胸を撫で下ろした。だけど、もちろん矛盾は感じているし、今日も嫌がらせをしてくるのかと思うと、気分は落ち込んだ。

それから授業が始まり午前中は何事もなく過ぎていき、問題の昼休み。

桃子は僕の机の前に立った。

「ねえ聡君っ!」

その言葉と態度は、予想と大きく違った。僕が背中に緊張の汗をかくと、桃子は続けて口を開いた。

「ちょっと来てくれない?」

僕は重い腰を上げて後に続いた。どこに連れていかれるのかとびくびくしていると、そこは屋上だった。

「何の用?」

思いきって問いかけた僕に、桃子は振り向くことなく背中で理由を語った。

「実は、今度追っかけてるアイドルのライブがあって、ちょっとお金が足りないんだよね。それで聡君に支援してもらえないかなって思って」

「え!?嫌だよ!」

「聡は優しいからそれくらい余裕でしょ?」

桃子は切実な顔を振り向かせ、手を合わせて拝み倒して来た。

「......いくらなの?」

「二万円!」

金額とか、そういう問題じゃないだろ?と自分に言い放った。心の中の天秤は、先ほどのことで異常をきたしているのか正常な判断ができなくなっていた。

「......ちゃんと返してくれるの?」

「当たり前でしょ!私が酷い女じゃないって聡だって知ってるでしょ?」

どの口が言っているのか。でも、それでも、桃子が可哀想に思えてしまう。あんな目にあったのだから、少しでも力になれたらと。

僕はつくづく......。

「わかったよ。でも、さすがに今は持ってないから、明日渡すよ」

「さっすが!」

渋々承諾した僕に対して、桃子の反応は真逆で憎たらしいほどに満面の笑みを浮かべていた。

「じゃあ明日よろしくね!」

そう言って去ろうとしたとき、夏の涼風が桃子のスカートをさらった。ふわりと舞い上がると、白い肌にピンクのパンツが視界に入った。

桃子は気づいていないのか、そのまま何も言わずに横を通り過ぎて行った。

なぜかその瞬間、桃子があの男に犯される姿が鮮明に映し出された。胸が張り裂けそうなほどの興奮が僕を襲う。

すぐにトイレに駆け込むと、僕は一心不乱にオナニーした。

桃子......桃子......。見たい。桃子の裸。胸、腰、太もも、アソコ。あの男は触ったんだ。僕の目の前で。いったいこの感情がなんなのか、僕にはまったくわからなかった。

腹が立つ。可哀想だよ。あいつは僕に、でも報いを受けたよ。だったらいいのかよ?それでまた繰り返したら?

「あ、あっ......」

飛び出た白い液体と共に、今まで感じたことのない快感が体を突き抜けていった。

胸に手を当てて、乱れる呼吸を整えた。

―――

放課後。僕は授業の復習をしていた。今日は色々なことがあり過ぎたのだ。それに、女子生徒が目に入るだけで想像してしまう。桃子だけじゃない。他にも可愛い子や綺麗な子はいる。そんな生徒の体を嫌でも気にしてしまって、本来やるべきことにまったく身が入らなくなっていたのだ。

だけどもし今、保健の授業をやったら楽しいんだろうなとも思い自然と笑みがこぼれる。

壁に取り付けられている時計を見ると、針は十七時を指していた。空は昨日と同じく夕陽が綺麗だった。真理亜ちゃんと一緒にいられたら......そんな甘酸っぱい思いを抱きながら教科書とノートを鞄にしまい席を立った。

廊下に出ると、二つ隣の教室から声が聞こえてきた。

僕以外にもいたんだと何気無しに通り過ぎようとしたとき、ドアのガラス越しに中の様子が見えた。

そこには桃子と、その友達の四人が窓際にいたのだが、それぞれの面持ちは強張り、いつもの明るい雰囲気ではなかった。

「最低だね」

そのうちの一人が低く意味深に言った。言葉には怒りが満ちている気がしたことから、僕はおそらく朝のことだろうと予想した。

「ねっ!マジで憂鬱だったし。でもさ、そのあと良いことあったんだ」

桃子が握り拳を作りながらも表情を緩ませた。

「何々?彼氏でもできた?」

桃子の言葉に、今度は違う子が興味津々に問いかけた。

「違うよ。ちょっと金欠だったから、私の聡にお願いしたの。そしたら二万、援助してくれたんだよね」

「あははっマジで!?聡ってただの馬鹿じゃん!」

四人の笑い声が教室に響いた。

「でもさ、それってくれたの?貸すとかじゃなくて?」

一人が桃子に疑問を投げかけた。そう、僕はあくまで貸すだけであってあげたわけじゃない。

「もちろん。さすがにそこまで馬鹿じゃないでしょ。ちゃんと返してって言ってたけど、でも私が返すわけないじゃん!あははっ!」

......うん、そうだよね。わかってたような気がする。

胸に途方もない切なさが溢れていく。

聡君は優しいから......。真理亜ちゃんの言葉が頭の中でこだまして、僕は自分のことがわからなくなった。

可哀想だと思った。善意であり、別に特別な理由があったわけじゃない。桃子の悲しそうな顔が嫌で見たくなくて、ただそれだけだった。

つくづく、やっぱり桃子は桃子だった。

「ねぇ、もしかしてさ、朝のとき聡もグルだったんじゃないの?その痴漢に便乗してさ、日頃の鬱憤を晴らしてたのかもよ。だからあっさりお金くれたんじゃん?」

桃子の正面にいた真帆の信じられない言葉に、僕は愕然とした。

「マジ!?それだったら超キモいんだけど!......でも、そうだよね。いくら聡だからって、あっさり二万なんてありえないよね。もしかして私、あいつにお尻触られたの?うわぁ最悪!」

桃子は肩を落として項垂れた。

「絶対そうだよ!むしろ触ったお礼じゃない?はははっ!桃子のお尻柔らかくてすべすべだもんね」

「そう考えたら、なんかめっちゃ腹立ってきた」

すぐに否定したい気持ちだったけれど、僕は怖くなっていた。

「てかさ、知ってる?聡と仲いい奴のこと」

その言葉に胸騒ぎが起きた。僕のことはどうだっていいけど、でも、それだけはやめてほしいと願った。

「あぁ知ってる。この組の子でしょ?たしか、何とか真理亜だっけ?やけに聡といい雰囲気だよね」

「まさか......んなわけないか」

「ないない。ありえないって!」

桃子達の笑い声は、教室はおろか廊下の先まで響いているだろうぐらい大きかった。

「でも、聡は私の財布だから勝手なことしないでほしいよね」

桃子達の一言一言が、僕の寿命を縮めるかのように不安にさせた。

「財布とかウケる!でも、その子クラスでも人気あるよ。他の男子にもよくコクられてるし」

コクられてる?その言葉に、急に胸が締め付けられ苦しくなった。

「へぇ。じゃあ優等生なの?」

「みたいだよ。あっ!いいこと思いついた。紙に聡に痴漢されましたって書いて、その子の机に入れとけば?」

「あーそれいいじゃん!超面白そう。それで結果聡に幻滅してくれたら最高なんだけどなぁ」

え......?背筋がゾッとした。

びりびりと桃子がノートの一片を千切ると、何か書き始めた。

数分後、四人はにやにやと顔を見合わせると、真理亜ちゃんの机に紙を入れて教室から出て行った。

僕は桃子達に見つからないように、そっと隠れて逃れた。

窓から夕陽が差し込む教室には、夏の風がカーテンを優しく揺らしていた。音すらなく、ただ風が僕の肌に触れるだけだった。

呆然と立ち尽くしていると、何かがお腹の奥底にあることに気づいた。熱くて、煮えたぎるような何か。

僕は教室に入ると、真理亜ちゃんの机に近付いて椅子を引いた。そして、ゆっくり腰を下ろすと、中からノートの切れ端を取り出した。

「今朝、私は電車で三組の新山聡に痴漢されました。あなたの親しくしている人は、最低の男です」

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